機械製ヘッジトリマー

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一体の生物機械製の少女が、コンクリートと金属の独房で座っていた。白いストレートジャケットが、彼女の心の中にある暴力の発露を防いでいた。この少女がしたかったのは、彼女の愛する人を守ることだけだった。たとえ、彼女の用いた方法が、少々荒々しいものであったとしても。彼女とサイト031-2にいる他の職員との間には、磁気ロックで閉じられた金属製のドアが一つだけあった。

彼女の機械製の肢体を回転させるエンジンは、静かに音をたてていた。そして、彼女の背中にある二本の排気管からは、未知の煙が放出されていた。彼女はこのパイプを感じることはあっても、煙を感じることはなかった。

独房の外にある記号には、内側にギリシャ文字が書かれた真っ赤な三角形が描かれている。439 という数字は記号の上部に書かれ、独房の中にいるものの名を示していた。言葉で説明するのではなく、独房の中にいるものが可能なことを伝えている。記号に描かれた単一の赤いシンボルは、対象の危険性を説明していた。

機械の少女は赤色が大好きだった。

脳内時計が真夜中を迎えると、彼女の顔から笑顔がこぼれた。彼女はこの日の出来事を、数ヶ月もの間計画していたからだ。今日は彼女の最愛の人、キャサリンの安全を確保する日になるだろう。時計が午前4時を迎えたら、彼女は自身の仕事の成果を目にすることになる。

ディーゼルパンクのヤンデレは、いつ何が起こるのか、用意した心象地図の上に光沢をつけながら、辛抱強く待っていた。少なくとも、すべてが彼女の計画通りに進んだ場合、何かが起こるはずだ。

00:00 - 警備員の交代
00:15 - ASFのジャクソンが、ジョーンズの水筒を、即効性の毒が混入されたものと交換する。
00:30 - 保安員のジョーンズが、 RPC-550の収容に使用されている一酸化炭素タンクを取り外す。
01:00 - 保安員のジョーンズが、一酸化炭素タンクを外したまま医療病棟に向かう。
01:15 - 管理人のバギンギーが、マルコム博士の飲み物に下剤を入れる。
01:30 - マルコム博士は、RPC-550の収容ユニットの標準的なメンテナンスの準備を開始する。
02:00 - マルコム博士はトイレに行くために持ち場を離れる。
02:30 - 標準メンテナンスのために、一酸化炭素がRPC-550の収容ユニットに送られ始める。
02:45 - 施設が封鎖された…?

「4時まで何も起きないはずなのに、どういうこと?」ヤンデレは自身に問いた。

未知の警報が施設中に鳴り響き始め、拡声器からアナウンスが流れた。彼女のユニットの中からは聞こえなかったが、音によるコンクリートの振動で、言葉の一部を聞き取ることができた。

「[不明瞭]は、[不明瞭]部隊によって包囲されました。Site-031-2 [不明瞭]のすべての人員は直ちに[不明瞭]してください」それが彼女が聞き取れた全てだった。

彼女が理解できたのはそれが全てだった。しかし、他にも感じるものがあった…「銃声だ」 彼女は声に出して言った。「キャサリンが危ない!」

生物機械製の女子高生は、すぐに行動を起こす必要があると判断した。彼女は行ったり来たりしながら、どうやって脱獄するか考えた。今日のように完璧に仕組まれた計画を思いつくはずがない。サイトウを守るという唯一の希望は危険を伴う。彼女のユニットのカメラを見ている者がいれば、彼らは磁石を発動させるだろう。

彼女は心の中のエンジンをかけ始め、全ての力を腕に注ぎ込んだ。もし彼女が自分のユニットから抜け出すなら、この白いジャケットから抜け出す必要がある。心の壊れた者のための完璧なシンボル。まとまった思考ができない人向けのもので、それゆえに自身や周囲の人々に危険をもたらす。しかし、たとえ機構がそう見ていたとしても、彼女はその中の一人ではなかった。1時間か2時間後、彼女はジャケットの付着点にある袖を引き裂いた。そして、中の手を出すために、鋭い金属の歯を使い、袖を齧った。

ジャケットを脱いでも磁石が作動しなかったため、ここから先は上手くいきそうだと彼女は思った。彼女のリスクは報われたのだった。彼女はサイトウが研究室以外のどこかにいるのを感じていた。避難用シェルターかもしれない。しかし、たとえ愛する人がどこへいようとも、彼女の元へ行かなければならない。

生物機械製の少女は、密かにドアに向かって進んだ。高圧磁石の音はしないようだった。彼女は両手をドアに押し付け、かき集められる全ての力を込めてドアを押し開いた。背中の排気管が白い煙を出し始めた。扉が開き、RPC-439は彼女の作った小さな開口部を通り抜けた。

彼女がユニットを出た時、事態が平常でないことは明らかだった。ユニットの外に配置されているはずの警備員はどこにもいなかった。代わりに、彼女のユニットの外にあるホールは完全に殺風景だった。ひっくり返った管理人の台車からは化学薬品の臭いがし、周囲では警報機の音が鳴り響いていた。点滅する警報灯が玄関ホールを埋め尽くし、上昇するエレベーターに向かって曲がりくねっていたが、ボタンは押しても反応しない。


「故障してる」彼女はため息をついた。「無理矢理こじ開けて、ケーブルを登らなきゃ」彼女は自身に言った。

エレベーターのドアをこじ開けるのは、彼女のユニットのドアよりもずっと簡単だった。花や様々な植物の香りが、彼女の上を波のように転がっていく。

シャフトを調べてみると、エレベーターの安全装置が故障し、下の階で反応しなくなっていることが分かった。しかしそれを除けば、ケーブルを登っていくことができそうだった。最上階に着くまで、次々と手を伸ばしていく。そして、最上階へ向かう扉に向かってスイングし、ジャンプを行い、彼女は扉をこじ開けた。

そこは植物の匂いが強く、彼女が思っていたよりもずっと静かだった。銃声が聞こえなかったため、彼女は静かにしなければならなかった。そうでなければ、彼らは彼女を見つけて、忌々しいくらいにきれいなコンクリートの独房へ戻してしまうだろう。たとえキャサリンに頼まれたとしても、彼女は二度と戻りたくなかった。

「廊下をまっすぐ進んで、食堂を左に曲がって」まるで見たことのないジャングルへ通じるドアを開けたように、少女は自分自身に言い聞かせた。そこは人間の死体から成長した、たくさんの奇妙な植物で満たされていた。換気装置が花粉と浮遊する種を部屋中に吐き出している。

彼女は最初に出くわした遺体を調べ、何か役に立つものがないか確かめた。彼女が調べたポケットはASFのもので、役に立つものはサービスナイフだけだった。鋸歯状の一般的な刃は、彼女の役に立つことだろう。

機械の少女は立ち上がり、他に役に立ちそうなものはないと断言する前に部屋の残りの部分を調べた。彼女は食堂を出て、上の階へ向かうエレベーターに向かった。食堂のドアを開けると、すぐに彼女は植物による大虐殺の犯人と対面した。

機械製連続殺人犯の前には、10歳の少女の死体らしきものがあった。目は消え、そこから黒い液体が漏れていた。生きた死体からは植物が生え、生命の錯覚を引き起こしていた。

死体は緑色の左手で一撃を食らわせようとしたが、機械の少女は戦闘態勢をとって攻撃を回避した。ディーゼルパンクのサイボーグに向かって、死体は驚くべきスピードで駆け寄ってくる。

シャッ


RPC-439からの一撃が、蠢く死体の首を切り落とすと、首から植物のようなつるが出てきて、頭をRPC-550の体にくっつけた。自然の子は防御力を欠かさず、反対側の手首を掴むため、一撃を受けた時と同様にヤンデレの自信過剰を利用した。

薔薇の棘がサイボーグの手首からはじけ、体中に伸びて彼女の皮膚を破り、引き裂いた。腕を覆い隠すように、少女の手のひらには花が咲いていた。

肉体が大きく失ったことで、RPC-439の再生器官は過度に運転した。ヤンデレの体中に生えていた植物は、全て皮膚になるまで変質されていった。植物に沿って成長した余分な肉は地面に落ちていった。

機械の少女は、戦闘で死体に勝てないことは分かっていた。だから彼女は逃げることにした。自分を守るためでなく、愛する人を守るために。

しかし、簡単には逃げられない。花の少女はその力の大部分を機構から隠していたからだ。地面の死体から生えているつる、茂み、木、サボテン、花が揺れ、向きを変え始めた。機械の少女を罠にかけ、最終的には殺すために動いている。サボテンがRPC-439の足に巻き付こうとしたが、シリアルキラーは跳んで抜け出した。

植物らは、自分たちが寄生している死体を動かし始めた。各々の死体は、リーダーが行っていたように、サイボーグに向かってよろよろと歩いていく。RPC-550と彼女のいる部屋には、およそ10体の蠢く死体があり、その全てが食堂の出口への道を塞いでいた。彼女の行動指針は決まっていた。まず、大きく成長した生け垣を刈り取る必要がある。脱出はそれからだ。

ズバッ

植物ゾンビへのRPC-439の最初の攻撃は正確に当たり、足を体から切り離した。しかし、このゾンビは鎧を着ていない門番に過ぎず、同じように「シャンブラー(蠢く者)」となった警備員とは違っていた。死のフラワーガールによるシャンブラーの何人かは、機械の少女に銃器を使用しようとした。たやすく再生された数発が命中した。

RPC-439は壁まで飛び上がり、銃器を使うシャンブラーの攻撃を撃退した。そして、アンデッドクリーチャーを墓場に戻すため、頭を三回に分けてしっかりと突き刺した。その後、彼女は彼らの銃を奪い、別のシャンブラーにマガジンの残りを放ち、殺してから空っぽの銃を捨てた。

RPC-550は腕からイバラと棘でできた鞭を伸ばし、機械の少女に向かって振りかざした。少女はそれを鈍らない程度にかわすことができた。しかし、その鞭は彼女の背中をかすめ、サイボーグの肉片を引き裂いた。この瞬間、自然の子は、RPC-439が食堂から脱出するための開口部を残した。そのため、機械はこの開口部を見定め、シャンブラーたちの列を切り抜けてドアに向かったのだ。

シャンブラーの一人は、RPC-550がかなり近くにいる状況でRPC-439の手首を掴み、攻撃しようとしていた。そこで、機械の少女は正確な一撃によって自身の手を切り落とした。食堂のドアを飛び出し、十分に離れたと感じられるまで廊下を走り続けた。


壁、床、天井は植物で覆われ、絶えず花粉を放出しているため、空気は薄緑色に染まっているように見えた。彼女の機械製の手は再生を始め、主要な金属構造が完成していた。あとは周囲の植物を利用して上部の肉が成長するのを待つだけだ。

廊下を進むにつれ、植物はどんどん茂っていった。災害の規模ははるかに大きく、彼女や植物の死体が逃げただけでないことが明らかになった。白い綿の種が彼女の周りに浮かんでいるように、植物はどこへ行くか制御できるように見えた。植物はコンクリートの上に着地すると、種子は自身を放出する前にすぐに小さな植物へ成長した。

RPC-439は廊下を走り続けた。植物が時折動くことによって、彼女は下にいるシャンブラーにすぐに対処することができた。この奇妙なシナリオの中で、ナイフは彼女の主要な武器であり続けた。切断は銃弾よりシャンブラーたちに効果的だったからだ。RPC-439は、エレベーターに乗る前に、この階の管理人のクローゼットを調べることに決めていた。彼女の持つナイフより大きな刃物が入っていることを期待したが、見つからなかった。

角を曲がり、階段の吹き抜けに近づいたとき、彼女はシャンブラーでない一人の男を見た。彼は、まるで依存しているかのように植物のサンプルを必死に集めていた。彼が機構の一員でないことは、動きや着ている服を見れば一目瞭然だった。彼は酸素マスクを接続したダイビングタンクを装着していた。男はウィンドブレーカーを着ていた。ウインドブレーカーは防雪パンツに、防雪パンツは彼の冬用ブーツにダクトテープで張られている。これらすべては、その場しのぎのダイバー用鎖帷子のようなもので覆われていた。様々な難解なルーン文字やシンボルが、服の表面を覆っている。

その男を数秒の間じっと見つめ、彼女はこのサイトを襲ったグループの一味に違いないと確信した。それは、この男が最愛のサイトウを敵視していることを意味しており、許せないことだった。彼女は彼の背後に忍び寄り、男に突進する前にゆっくりとナイフを構え、その血に飢えた手足を引き裂いた。男が持っていたのは、左右で二人が祈りを捧げている奇妙な木が描かれた木製のコインで、裏には「ユグドラシルの息子たち」と書かれていた。彼はまた、この施設全体の地図を持っていたが、彼女が発見されずに簡単に出入りできる場所を示す様々なマークが付けられていた。

地図に記された道順に従ってサイト031-2を出ると、彼女は近くの丘の上にキャンプがあるのを見た。最愛の人がいると感じた方向にあるため、彼女はその小さなキャンプに近づいた。キャンプには、何が起こっているのか分からずパニックになっている人々で埋め尽くされていた。「あなたは誰?」 キャンプにいる人の中の一人が、機械製のサイボーグと、先程の彼女の犠牲者による血痕をじっと見ながら尋ねてきた。

RPC-439は彼らの質問を無視し、最愛の人を探すためにキャンプの内部へと向かった。最終的に、彼女は最も厳重に警備されたテントへ向かった。テントの前には、樹皮で覆われたローブを着て、木製のライフルとしか言いようのないものを持った二人の大きな男性が立っていた。彼女が入り口に近づくと、二人のうちの一人が入り口の前に移動して、機械の少女が入るのを防ごうとした。

守衛の行動は無駄だった。機械の少女は右腕一本の動きで簡単に男を押しのけたからだ。その時になって初めて、キャンプに迷い込んだアノマリーの真の深刻さが、その場にいた人々に明らかになった。

テントの中に入ると、RPC-439は疫病を逃がさないようにしているテントの構造に気がついた。その場しのぎのエアロックが、テントの内部と外界を隔てている。彼女は湿った地面の上にいるRPC-439-1を発見した。彼女は自身の血でできたプールの中で横たわっていた―「まさか、彼女が死んだはずがない」RPC-439は現実から目をそらして自身に言い聞かせた。しかし、目の前の女性は息をしていなかった。

遺体に近づいてよく見ると、彼女は膝から崩れ落ちました。植物は女性の内側から外側へ成長し、彼女を破裂させていた。機械の少女は赤色だけを見るようになり、その後、彼女の機械製の心臓の歯車は回転を停止した。心臓内部の歯車が限界まで動作したことで、金属でできた接合部が動かなくなってしまったのだった。

…機械製ヤンデレに要望した以前の機能に加えて、もう一つ希望したいものがあります。いくらなんでも、私は一人の人間ですから、いつかは死ぬわけです。だからこそ、私が死んだ後の機械製ヤンデレの気持ちを考えるのは苦しい。そこで、私が要望しているのがこの機能です。私が死んだ後、彼女が自分の運命を自分で決めることができるようにしてほしい。言い換えれば、私が死んだ後、彼女には自由な意志を手に入れてほしいのです。

変なお願いなのは分かっています。けれど、皆さんがいつも言っているように、私は株式会社カワイイの番号付けの商品に対して、不思議と温かい気持ちを抱いているのです。

敬具: 18歳


ファイル更新: ポスト サイト-031-2の破壊について


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登録事象コード: 439

オブジェクトクラス: Neutralized (推定)

ハザードタイプ: 攻撃性, 再生, 有機的, 機械的, 高等知性 N/A

収容プロトコル: N/A (未回収)

説明: RPC-439は、株式会社カワイイという名のグループと、AEPの共同プロジェクトで生まれた、人型の生物機械製実体です。RPC-439の身長は1.67mで、黒髪、暗赤色の瞳、ほっそりとした女性的な体格をしています。RPC-439は非常に優れた再生能力を持っており、身体の有機的な部分と機械的な部分の両方を再生することができます。加えて、RPC-439は、標準的な人間の被験者と比較した際、著しく増加した速さと強さを持っています…

ファイル更新: ポスト サイト-031-2の破壊について


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登録事象コード: 550

オブジェクトクラス: Gamma-Purple

ハザードタイプ: 攻撃性, 動作性, 有機的, 高等知性, 知覚, 接触性, 自己複製, 集団的, 変形, 病原性

収容プロトコル: 不完全

説明: RPC-550は、現在は破壊されたサイト031-2と、その跡地に生息するすべての植物由来のアノマリーの総称です。RPC-550は、RPC-550-1からRPC-550-12までの範囲で、RPC-550内に存在することが確認されているすべての個々の異常な生物を指定しています。

RPC-550-1は、白人女性の高等知性を持つ動く死体で、以前はアダム・█████の10歳の娘、ファビア・ナ█████として知られていました。 そして、現在の状況につながる出来事の前に、「The Union」という要注意団体との関係があったことが確認されています…

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